ヘリコバクター・ピロリ菌の除菌治療についての番外編です(本編は今のところありません。)
ピロリ菌については、ウェブ上でも様々な情報があり、除菌治療を行うことで、
①胃潰瘍・十二指腸潰瘍の再発率を下げる。
②胃癌になりにくくなる。
などの効果が期待されると言われています。
ここで取り上げる除菌治療のメリットは、
「ピロリ胃炎の改善により、検診精度が上がる」という点です。
下に掲載の写真は、同一症例での胃カメラの所見です 。
(左)除菌前 (右)除菌成功1年後
(左)除菌前では、胃の中に白い粘液が多く、ヒダが肥厚(胃粘膜がむくんでいるために、このように見えます。)して、特にヒダとヒダの隙間の観察が困難です。もちろん検査前に“胃内粘液の溶解除去剤”を服用していただき、できる限り胃内を洗浄した後の所見です。それでも粘液の下やヒダの隙間に小さな病変が隠れていた場合に発見が困難なことがあります。
(右)除菌成功1年後には、粘液はほぼ完全に消失しており、ヒダの肥厚が改善しており、より詳細な検査が可能です。もちろん粘液を洗う時間が短縮され、検査時間も短縮されます。
除菌治療を受けても、胃癌が絶対に出来なくなるわけではないので、検診の継続は必要です。ただ同じ検査を受けるとしても、除菌前後ではその精度は大きく変わります。また検査時間の短縮にもつながるので、除菌治療の大きなメリットの一つと考えられます。
大腸カメラを受けるときの当院での流れをご紹介します。下剤の飲み方や検査時間は、施設によってまちまちですが、大体同じように考えていただけると思います。
①検査の2日前から、便を軟らかくするお薬と軽い下剤を内服していただきます。
②検査前日の夕食は、検査食を食べていただいて、以後は絶食となります。水分はしっかり飲んでいただいてOKです。
③検査当日は午前中から約2リットルの下剤(腸管洗浄液)を1~2時間かけて服用していただきます。その後、4~5時間で腸内の便がほぼきれいに流し出されます。
④検査開始です。検査開始の前に、腸の動きを抑える注射を肩にします。
大腸は左の図のように一番奥が盲腸になりますが、まずは肛門から盲腸までスコープを挿入します。盲腸までたどりついてから、今度は腸を膨らませ、ポリープなどの病変を探しながらスコープを抜いてきます。
病変が見つかった場合に、組織の検査をしたり、ポリープ切除を行ったりする場合がありますが、このあたりは施設によって違いが大きいです。
検査時間は、ポリープ切除などの治療がない場合には、大体15分~20分のことが多いです。
⑤検査後、組織の検査やポリープ切除がなければ、アルコール・食事制限や運動制限はありません。特にポリープ切除を行った場合は、数日の食事・生活制限があります。
胃カメラと異なり、大腸カメラの検査は下剤を服用し排便に要する時間が必要なので、1日作業となります。またポリープ切除の可能性がある場合は、合併症に注意が必要なので、1週間程度は旅行や出張などの大事な用事がない時を選んで検査予約をしましょう。
胃カメラでも大腸カメラでも、検査中はスコープから送気(通常は空気を送ります)して観察を行います。
普段の胃と大腸は、しぼんだ風船のような状態なので、出来るだけ死角を少なくして観察するために、空気で風船を膨らませるのです。
この空気でお腹が張るのが意外とつらいもので・・。検査中のお腹の張りは、思わず「うぅっ」となりそうで、検査が終わった後も、お腹がパンパンで、しばらくの間は排ガス(おなら)が続きます。
内視鏡医の立場からは、これが意外と悩ましい問題なのです。
下は胃カメラ時の写真ですが・・
左写真は、胃の空気が少なめで、患者様は楽なのですが、胃の皺と皺の間に病気が隠れていると見えません。
右写真はしっかり胃に空気を入れて皺を伸ばしています。皺の間までしっかりと観察することが出来ます。
どうしても皺の伸びにくい胃もありますが、出来るだけ隅々まで観察するためにはやはり胃を膨らませる必要があるのです。
お腹の張りを軽減するために、二酸化炭素を胃や腸に送気する機械(CO2レギュレーター)を使用します。二酸化炭素は速やかに吸収され、吐く息から放出されるので、検査中や検査後のお腹の張りが緩和されます。
使用の感触は、特に検査後のお腹の張りを訴える方が全くといって良いほどなくなりました。私自身、内視鏡検査を施行するのにも、また受けるのにも期待が大きいです。
今後も内視鏡検査がより楽に受けられる機器開発に期待です。
検便検査で陽性であれば・・・
必ず大腸カメラの検査を受けましょう。
検便検査で陽性になったからといって、確かに必ず大腸がんが見つかるわけではありません。
便潜血検査で要精密検査とされる方の割合は約7%と言われますが、その中で大腸カメラ検査を受けた方に、実際に大腸がんが発見される可能性は数%程度です。ただし大腸ポリープが発見される割合は数十%と言われます。
「検便検査で2回のうち陽性だったのは1回だけだから・・」
「検便検査で陽性だったけど、特にお腹の症状もないから・・・」
と、大腸カメラを敬遠される方がたくさんおられます。
「大腸カメラなんて、誰も好んで受けたくはない」し、「まさか自分が大腸がんだなんて思いたくない」という心理が働くのでしょう。私自身も初めて大腸カメラを受けようと決心するまで、そんな気持ちでずいぶん時間を費やしました。
大腸ポリープや早期の大腸がんは、ほぼ100%完全に(再発せずにという意味です。)治ります。
また大腸がんはある程度進行していても、 完全に治る可能性が十分にあります。
大腸カメラをしていて、大腸がんが見つかると、内視鏡医としてもやはりショックであり、患者様に伝えなければならないことを心苦しく思います。一方で、がんの大きさや形を見て、手術をすれば治るだろうと思えれば、「見つかって良かった。おそらく助かるだろう。」と心の中で安堵感を浮かべるものです(大腸カメラを受けておられる患者様にいきなり「見つかって良かったね」という言葉は適切でないと考えています。)。
大腸がんや大腸ポリープが存在する確率論も、もちろん重要ですが、そんな内視鏡医としての経験(大腸カメラを握る内視鏡医は日々経験する出来事です。)からも、
検便検査で陽性であれば・・・
必ず大腸カメラの検査を受けましょう。
がん検診を受けましょう。
日本では市区町村などの住民検診の受診率が25%以下にとどまります。
がん検診を受けることの有効性は、無作為化比較対照試験(Randomized Controlled Trial: RCT)で示されています・・・・といった難しい説明も必要なのですが・・
内視鏡医の印象としても・・
進行大腸癌が見つかるケースは「これまで1度も大腸がん検診を受けたことがない」人に圧倒的に多いです。
特に大腸がんの1次検診は検便・・・とても簡単、痛くも痒くもありません。
「ひっかかったら大腸カメラ?」と恐れる前に、まずは1次検診だけでも受診しましょう。
オエッとなる嘔吐反射を起こさない楽な内視鏡として開発された経鼻内視鏡ですが、それでも何回もオエッとなってしまうという方も多くおられます。
左の写真のように、
舌を前に出して歯で軽く噛んでおきましょう。
経鼻内視鏡では、舌の付け根にスコープが接触しないので嘔吐反射が起こりにくいと言われます。
胃カメラの検査では経鼻でも経口でも口、のど元に異物がある状態なので、思わず舌で触りたくなるものです。
舌を動かさないのが胃カメラを楽にうける一つのコツなのですが、経口内視鏡ではその感覚を言葉で表現することはなかなか難しいですね(得意・不得意、個人差が大きいです。)
でも経鼻内視鏡では口が自由なので、歯で軽く噛んで固定しておくことによって、より嘔吐反射を抑えようという発想です。
嘔吐反射は舌根への接触でのみで誘発されるわけではありません。
不愉快なものを見て、オエッとなることもありますよね?
いかにリラックスできるかが最も大事なポイントです。
「ムセて窒息しそうになるから胃カメラは嫌だ!」というのも、嫌われる1つの要因ですが、これも受け手の工夫で防ぐことはできます。
胃カメラの検査でむせてしまうのは、唾を飲み込んでしまうからです。通常、食事を飲み込むときは気管に入ってしまわないように、フタ(喉頭蓋:こうとうがい)がされるのですが、のどに局所麻酔が効いているので、このフタが上手く動きません。そのため気管に唾液が流れ込んでしまい、あわてて水を飲み込んだときと同じように、反射でムセるのです。
胃カメラの検査では「唾を飲まないで下さいね」と言われます。
ムセないためには「唾を飲み込まなければ良い」のですが、
口の中に唾液が貯まってくると、思わず・・反射的に・・飲みたくなってしまうものです。
私が検査を始める前に、「唾を飲まないで下さいね」とお願いすると、患者様から「え~っ・・絶対無理!!」と言われることがよくあります。
どうすればよいでしょう?簡単にできる解決法を一つ
“顔の向き”に気をつけましょう
あまり極端な姿勢をとると検査に支障が出るかもしれないので、ご自身の検査担当医の指示に従って下さい。
私のいつものセリフは「少しうつ伏せ加減で~・・歯の力を抜きましょう~・・枕にギュッと頭を沈めて~」です。( “オエッとなる(嘔吐反射)・・を和らげるため” も御覧下さい。)
胃カメラを楽に受けるためには・・
胃カメラのどこがしんどいかを知る必要があります。
などが、最もよく言われる胃カメラの“しんどい”要因ではないでしょうか?
内視鏡医の技術はもちろん重要ですが、実は胃カメラの場合は受ける人の得意・不得意がこれらの要因に大きく影響します。しかし胃カメラを飲むのが生まれつき得意な人はいないわけで、・・では、いつ決まるのでしょうか?
内視鏡検査を行う側から見ると、ガチガチに緊張してしまっている方の胃カメラを行うのはとても難しいです。
検査ベッドで極度の緊張をしている方の多くが、前の検査の時は死ぬほどしんどかったから・・と言われます。そんな死ぬような想いをした検査をまた受けにきて頂いて、内視鏡医としては心から感謝すべきだと感じます。
そのような内視鏡トラウマを持った方より、むしろ初めて胃カメラを受ける方のほうが、上手にリラックスして検査が終わることが多いかもしれません。トラウマを作らないために、「初めての胃カメラ」をさせていただく内視鏡医には、やや別の緊張感があるものなのです。またトラウマを抱えてこられた方に検査後、「今回は楽だった~」と言われる瞬間に良い仕事が出来たなと思います。
胃カメラの苦痛度が受ける側の要因(リラックス度や体勢など)に左右されるのであれば、そもそも楽なやり方(胃カメラの受け方)を少し知って検査に臨めば、前より楽に検査が受けられのでは?
もちろん内視鏡医や看護師が「楽な気持ちと姿勢」に誘導することが大事で、特に胃カメラの場合、それも技術に含まれます。内視鏡検査を受けるときに、「力を抜いて下さいね」「唾を飲まないで」など言われますよね?でも・・力を抜けと言われても・・初めての検査で極度の緊張状態であったり、まして前回検査でのトラウマを持っていたりすると、言われたとおりにするのは意外と難しいものです。
もう少し具体的にお話ししましょう・・・
鼻からカメラを挿入するなんて・・はじめて見たときには驚きましたが、耳鼻科の先生から見ればごく普通のことだったんだと思います。
胃カメラで最もよく耳にする苦痛は、オエッとなること(嘔吐反射)ですが、これは舌根部(口の奥の方にある舌の付け根)にスコープが触れることで引き起こされます。のど痛で口の中の診察される時と同じことですね。
経鼻内視鏡は舌根部に接触しない経路でスコープが挿入されるので、経口と比べてオエッとなりにくいのです。
自分が内視鏡検査を受けるのに経鼻内視鏡がよいのか経口内視鏡がよいのか選択に迷うところです。経鼻内視鏡か経口内視鏡を選択する上で、その違いに注目してみます。
経鼻内視鏡といっても、スコープは経鼻専用というわけではないので、もちろん口から挿入することもできます。
経鼻と経口の違いは、①使用するスコープの違い、②挿入経路の違いに分けて考えた方がわかりやすいのではないでしょうか。
①使用するスコープの違い:
様々なメーカーから多種の内視鏡が販売されていますが、経鼻に使用するスコープは太さがおよそ5mm(通常の経口スコープは大体10mm前後)と細径です。
細いことのメリットは、鼻から挿入できること、口から挿入しても嘔吐反射が比較的少なく楽なことです。反対に細いが故に、画質が通常の経口スコープ(現在最新のものではハイビジョン画像になっているものが主流です。)と比べて劣ることが最大のデメリットといえるでしょう。
つまり、どの程度の画質が必要かを考えることがスコープ選択には必要になります。
例えば・・癌のリスクの低い若い方が、胃痛のため、胃潰瘍や十二指腸潰瘍を疑って胃カメラを受ける場合は、細径のスコープでも十分に発見することが可能でしょう。一方で、胃癌1次検診(バリウムの検査)で要精密検査と言われ、胃癌2次検診として胃カメラを受ける場合、小さな早期胃癌を検索するため画質が高いスコープほど有利になるでしょう。もちろん「口から胃カメラなんて絶対に嫌!!」とおっしゃる方はたくさんおられるでしょうし、その場合はまったく胃カメラ検査を受けないよりは、多少画質が落ちても細径スコープで検査を受けた方が良いでしょう。ここに挙げたのはあくまで例えなので、それぞれの方に合った内視鏡検査は医師とよく相談する必要があります。
②挿入経路の違い:
鼻からか、口からの違いです。経鼻内視鏡の開発目的は「オエッとなりにくい」内視鏡検査の実現と言えるでしょう。(経鼻内視鏡でもオエッオエッの連続だったとおっしゃる方が、たまにおられます。その解決方法については後日、ご紹介したいと思います。)
経鼻内視鏡を一度受けると、次回は8割程度の方が、「次も経鼻内視鏡が良いと希望される」との宣伝文句をちらほら目にします。実際に内視鏡検査を行っていて、「次もぜったい経鼻で・・」とおっしゃる方の共通点は、鼻から喉へスコープ挿入にまったくストレスがなかったという点だと思います。いかに経鼻挿入時のストレスを無くすかがポイントなりますが、鼻孔の局所麻酔の効き具合、内視鏡医の技術(経鼻内視鏡と言っても、内視鏡である限り技術は不可欠!特に鼻道の通過には大腸カメラに共通した技術が必要と感じています。)がもちろん影響を及ぼしますが、やはり最も大きな要因はその方々の鼻孔・鼻道の形状、痛み・不快感の感じ方になると思います。経鼻内視鏡を握っていてなんの抵抗なく、容易く経鼻挿入が可能であった方でも、「痛くはないけど鼻の中の異物感が嫌い」とおっしゃる場合もあれば、見た目に明らかに狭い鼻道をなんとか挿入した方が、「まったく痛くなかった、鼻からのカメラが良い」とおっしゃる場合もあります。結局、検査を受ける個人個人によると言ってしまえば、身も蓋もありませんが、他人から経鼻内視鏡をすすめられたからといって、必ずしも自分にとって最良の方法とは限らないということは知っておいて損はないでしょう。
鼻からは抵抗感が強くて、やっぱり口から受けようと希望される方もにとっても、細径スコープはありがたい選択肢です。(経鼻用と言われる)細径スコープでも、口から挿入できないわけではありません。当然、スコープが細い方が、舌根部に接触が少なくオエッとなりにくいですし、喉の異物感も優しいです。直径5mmのアメ玉と直径10mmのアメ玉を並べて、飲み込むところを想像してみてください(危険ですので、決して実際には試さないでくださいね)。その違いは容易にイメージできるでしょう。・・・ただし10mmのアメ玉(通常径のスコープ)も自分で飲み込むのではなく、内視鏡医にお手伝いさせていただければ、想像するほどは地獄ではないはず・・と付け加えさせてください。
施設によって得意・不得意もあるでしょうし、実際に内視鏡検査を予約される際には、担当医とよく相談していただく必要があります。ご自身が内視鏡検査を受けられる目的を担当医と一緒に考え、使用するスコープ・挿入経路を決めていけば自ずと答えが出るのではないでしょうか。