ヘリコバクター・ピロリ菌については、メディアでも多数取り上げられ、多くの患者様からご質問をいただくようになりました。
ピロリ菌の除菌治療については、これまで内視鏡にて胃潰瘍や十二指腸潰瘍、その他の疾患が認められる場合にのみ、医療保険で除菌治療が可能でした。
平成25年2月から、「慢性胃炎」でも医療保険でピロリ菌の除菌が可能となりました。
下写真は40歳代・男性の内視鏡所見です。
強い萎縮性胃炎(左)と胃のヒダの浮腫状変化や粘液の付着(右)を認めます。
内視鏡医から見ると、あきらかなピロリ菌による活動性胃炎ですが、他に胃潰瘍や十二指腸潰瘍が存在しなかったため、医療保険による除菌治療が不可能でした。
今回の保険適用拡大により、このような「慢性胃炎」の方も医療保険でピロリ菌の除菌治療がうけられるようになりました。
胃癌の好発年齢が中年・高年期であり、癌細胞が発生してから、臨床的に確認できるまでの期間(内視鏡で観察できるようになるまでの期間)を考えると、若い時期にピロリ菌除菌が行えるのは、大変有意義なことだと思います。
実際に除菌治療を行うケースが日々増加しています。ただし除菌治療にともなう副作用のリスクもあるので、やはり個々の胃炎の状態、薬のアレルギーの可能性などを総合的に判断する必要があります。十分に主治医と相談して、ご自身の除菌治療についてご検討下さい。
大腸カメラを受けたことのある方で、検査の時に「お腹の手術歴はありますか?」と聞かれたことのある方は多いと思います。開腹手術を受けると傷が治る際に、多かれ少なかれ癒着が生じます。大腸はお腹の中で一部ブラブラしているので、腹壁などに癒着(くっつく)が生じることがあります。開腹手術の後、腸閉塞という病気を起こされる方がおられますが、これは癒着によることが多いです。お腹の手術歴がなくても、癒着がある方もおられますが、大多数がお腹の手術歴のある方に見られます。
大腸カメラの検査の時に、「お腹の手術歴はありますか?」と聞かれるのは、この癒着があるかどうかを内視鏡医が想像しているからです。癒着があったからといって必ずしも大腸カメラを入れるのが難しくなったり、痛みが生じるわけではありませんが、より慎重に内視鏡検査を行う必要があります。
お腹の手術歴を伺ったときに、「ありません」とおっしゃる患者様にさらに「盲腸の手術もありませんか?」とさらに尋ねると、「盲腸は手術したことがある。でもずいぶん若いときだから関係ないかと思った。」とお答えになる患者様を時々見かけます。
虫垂炎(いわゆる盲腸)の手術は癒着が生じていることが比較的多く、手術を受けてから年数が経過していても癒着は残っています。
大腸カメラを受けられる際に、あらかじめ手術歴を内視鏡施行医に伝えましょう。
よく見かけるのは、虫垂炎(盲腸)、子宮・卵巣の手術、腎摘出術、胃手術、大腸手術、肝臓・胆嚢の手術歴です。
ヘリコバクター・ピロリ菌の除菌治療についての番外編です(本編は今のところありません。)
ピロリ菌については、ウェブ上でも様々な情報があり、除菌治療を行うことで、
①胃潰瘍・十二指腸潰瘍の再発率を下げる。
②胃癌になりにくくなる。
などの効果が期待されると言われています。
ここで取り上げる除菌治療のメリットは、
「ピロリ胃炎の改善により、検診精度が上がる」という点です。
下に掲載の写真は、同一症例での胃カメラの所見です 。
(左)除菌前 (右)除菌成功1年後
(左)除菌前では、胃の中に白い粘液が多く、ヒダが肥厚(胃粘膜がむくんでいるために、このように見えます。)して、特にヒダとヒダの隙間の観察が困難です。もちろん検査前に“胃内粘液の溶解除去剤”を服用していただき、できる限り胃内を洗浄した後の所見です。それでも粘液の下やヒダの隙間に小さな病変が隠れていた場合に発見が困難なことがあります。
(右)除菌成功1年後には、粘液はほぼ完全に消失しており、ヒダの肥厚が改善しており、より詳細な検査が可能です。もちろん粘液を洗う時間が短縮され、検査時間も短縮されます。
除菌治療を受けても、胃癌が絶対に出来なくなるわけではないので、検診の継続は必要です。ただ同じ検査を受けるとしても、除菌前後ではその精度は大きく変わります。また検査時間の短縮にもつながるので、除菌治療の大きなメリットの一つと考えられます。
「癌の症状は?」という質問に対する回答は「無症状」です。
大腸癌・胃癌もしくは他の癌であっても基本的には無症状です。
癌が進行して、出血したり他の臓器に浸潤・転移をすると症状が出現するわけですが、様々な症状があるので、一口に「こんな症状」とは言えません。
便に血が混ざった・お腹が痛い・ガスがたまる・・・等々、様々な症状で外来診察や知人からご相談をいただくことがあります。私はいつも「ご自身で実際に御心配なさっている病名があれば、教えていただけると大変参考になります。」とお聞きします。多くの方が少し恥ずかしそうに「やっぱり・・癌などが心配」とお答えになります。特に若い方にその傾向は強いです。
確かに癌を強く疑うケースはほとんどありませんが・・・・・
恥ずかしがる必要は全くないのです。
「癌の心配=生命の危機に対する不安」であって、本能的に感じるのだと思います。
私自身、医師であってもお腹がいたい・咳がつづく・頭痛がつづくなどの症状がある時には、やはり「癌じゃないだろうか」なんて不安は頭をかすめます。癌の心配じゃなくても、インフルエンザで高熱を出したら、薬を服薬していても思わず「死ぬんじゃないか・・」と不安になったりもしますよね。
自分自身の体の異変に対して敏感なのは、むしろ健全だと思います。もちろん実際の臨床現場では心因性の症状も多く、過敏になるのはむしろ自分自身を苦しめる羽目になるのですが・・。
病院で診察を受けられる際には、「こんな病気が心配」と率直に医師に伝えましょう。例え的外れであっても、医師はあなたの心配を真摯に受け止めるべきなのです。医師の説明を聞いて、実際に何らかの検査が行われるのかどうかは状況次第ですが、きっと実りのある診察になるのではないでしょうか?
大腸カメラを受けるときの当院での流れをご紹介します。下剤の飲み方や検査時間は、施設によってまちまちですが、大体同じように考えていただけると思います。
①検査の2日前から、便を軟らかくするお薬と軽い下剤を内服していただきます。
②検査前日の夕食は、検査食を食べていただいて、以後は絶食となります。水分はしっかり飲んでいただいてOKです。
③検査当日は午前中から約2リットルの下剤(腸管洗浄液)を1~2時間かけて服用していただきます。その後、4~5時間で腸内の便がほぼきれいに流し出されます。
④検査開始です。検査開始の前に、腸の動きを抑える注射を肩にします。
大腸は左の図のように一番奥が盲腸になりますが、まずは肛門から盲腸までスコープを挿入します。盲腸までたどりついてから、今度は腸を膨らませ、ポリープなどの病変を探しながらスコープを抜いてきます。
病変が見つかった場合に、組織の検査をしたり、ポリープ切除を行ったりする場合がありますが、このあたりは施設によって違いが大きいです。
検査時間は、ポリープ切除などの治療がない場合には、大体15分~20分のことが多いです。
⑤検査後、組織の検査やポリープ切除がなければ、アルコール・食事制限や運動制限はありません。特にポリープ切除を行った場合は、数日の食事・生活制限があります。
胃カメラと異なり、大腸カメラの検査は下剤を服用し排便に要する時間が必要なので、1日作業となります。またポリープ切除の可能性がある場合は、合併症に注意が必要なので、1週間程度は旅行や出張などの大事な用事がない時を選んで検査予約をしましょう。
胃カメラでも大腸カメラでも、検査中はスコープから送気(通常は空気を送ります)して観察を行います。
普段の胃と大腸は、しぼんだ風船のような状態なので、出来るだけ死角を少なくして観察するために、空気で風船を膨らませるのです。
この空気でお腹が張るのが意外とつらいもので・・。検査中のお腹の張りは、思わず「うぅっ」となりそうで、検査が終わった後も、お腹がパンパンで、しばらくの間は排ガス(おなら)が続きます。
内視鏡医の立場からは、これが意外と悩ましい問題なのです。
下は胃カメラ時の写真ですが・・
左写真は、胃の空気が少なめで、患者様は楽なのですが、胃の皺と皺の間に病気が隠れていると見えません。
右写真はしっかり胃に空気を入れて皺を伸ばしています。皺の間までしっかりと観察することが出来ます。
どうしても皺の伸びにくい胃もありますが、出来るだけ隅々まで観察するためにはやはり胃を膨らませる必要があるのです。
お腹の張りを軽減するために、二酸化炭素を胃や腸に送気する機械(CO2レギュレーター)を使用します。二酸化炭素は速やかに吸収され、吐く息から放出されるので、検査中や検査後のお腹の張りが緩和されます。
使用の感触は、特に検査後のお腹の張りを訴える方が全くといって良いほどなくなりました。私自身、内視鏡検査を施行するのにも、また受けるのにも期待が大きいです。
今後も内視鏡検査がより楽に受けられる機器開発に期待です。
検便検査で陽性であれば・・・
必ず大腸カメラの検査を受けましょう。
検便検査で陽性になったからといって、確かに必ず大腸がんが見つかるわけではありません。
便潜血検査で要精密検査とされる方の割合は約7%と言われますが、その中で大腸カメラ検査を受けた方に、実際に大腸がんが発見される可能性は数%程度です。ただし大腸ポリープが発見される割合は数十%と言われます。
「検便検査で2回のうち陽性だったのは1回だけだから・・」
「検便検査で陽性だったけど、特にお腹の症状もないから・・・」
と、大腸カメラを敬遠される方がたくさんおられます。
「大腸カメラなんて、誰も好んで受けたくはない」し、「まさか自分が大腸がんだなんて思いたくない」という心理が働くのでしょう。私自身も初めて大腸カメラを受けようと決心するまで、そんな気持ちでずいぶん時間を費やしました。
大腸ポリープや早期の大腸がんは、ほぼ100%完全に(再発せずにという意味です。)治ります。
また大腸がんはある程度進行していても、 完全に治る可能性が十分にあります。
大腸カメラをしていて、大腸がんが見つかると、内視鏡医としてもやはりショックであり、患者様に伝えなければならないことを心苦しく思います。一方で、がんの大きさや形を見て、手術をすれば治るだろうと思えれば、「見つかって良かった。おそらく助かるだろう。」と心の中で安堵感を浮かべるものです(大腸カメラを受けておられる患者様にいきなり「見つかって良かったね」という言葉は適切でないと考えています。)。
大腸がんや大腸ポリープが存在する確率論も、もちろん重要ですが、そんな内視鏡医としての経験(大腸カメラを握る内視鏡医は日々経験する出来事です。)からも、
検便検査で陽性であれば・・・
必ず大腸カメラの検査を受けましょう。
がん検診を受けましょう。
日本では市区町村などの住民検診の受診率が25%以下にとどまります。
がん検診を受けることの有効性は、無作為化比較対照試験(Randomized Controlled Trial: RCT)で示されています・・・・といった難しい説明も必要なのですが・・
内視鏡医の印象としても・・
進行大腸癌が見つかるケースは「これまで1度も大腸がん検診を受けたことがない」人に圧倒的に多いです。
特に大腸がんの1次検診は検便・・・とても簡単、痛くも痒くもありません。
「ひっかかったら大腸カメラ?」と恐れる前に、まずは1次検診だけでも受診しましょう。
オエッとなる嘔吐反射を起こさない楽な内視鏡として開発された経鼻内視鏡ですが、それでも何回もオエッとなってしまうという方も多くおられます。
左の写真のように、
舌を前に出して歯で軽く噛んでおきましょう。
経鼻内視鏡では、舌の付け根にスコープが接触しないので嘔吐反射が起こりにくいと言われます。
胃カメラの検査では経鼻でも経口でも口、のど元に異物がある状態なので、思わず舌で触りたくなるものです。
舌を動かさないのが胃カメラを楽にうける一つのコツなのですが、経口内視鏡ではその感覚を言葉で表現することはなかなか難しいですね(得意・不得意、個人差が大きいです。)
でも経鼻内視鏡では口が自由なので、歯で軽く噛んで固定しておくことによって、より嘔吐反射を抑えようという発想です。
嘔吐反射は舌根への接触でのみで誘発されるわけではありません。
不愉快なものを見て、オエッとなることもありますよね?
いかにリラックスできるかが最も大事なポイントです。
「ムセて窒息しそうになるから胃カメラは嫌だ!」というのも、嫌われる1つの要因ですが、これも受け手の工夫で防ぐことはできます。
胃カメラの検査でむせてしまうのは、唾を飲み込んでしまうからです。通常、食事を飲み込むときは気管に入ってしまわないように、フタ(喉頭蓋:こうとうがい)がされるのですが、のどに局所麻酔が効いているので、このフタが上手く動きません。そのため気管に唾液が流れ込んでしまい、あわてて水を飲み込んだときと同じように、反射でムセるのです。
胃カメラの検査では「唾を飲まないで下さいね」と言われます。
ムセないためには「唾を飲み込まなければ良い」のですが、
口の中に唾液が貯まってくると、思わず・・反射的に・・飲みたくなってしまうものです。
私が検査を始める前に、「唾を飲まないで下さいね」とお願いすると、患者様から「え~っ・・絶対無理!!」と言われることがよくあります。
どうすればよいでしょう?簡単にできる解決法を一つ
“顔の向き”に気をつけましょう
あまり極端な姿勢をとると検査に支障が出るかもしれないので、ご自身の検査担当医の指示に従って下さい。
私のいつものセリフは「少しうつ伏せ加減で~・・歯の力を抜きましょう~・・枕にギュッと頭を沈めて~」です。( “オエッとなる(嘔吐反射)・・を和らげるため” も御覧下さい。)